初回の打ち合わせでは、作るものの話と一緒に、ページ数、修正は何回までか、写真は誰が用意するか、作ったデータをどこまで使ってよいかといった条件の話が、一度に出てきます。画面を共有して参考サイトを見ながら聞いていると、メモが追いつかないまま打ち合わせが終わることもある。
ですが、録っておけば、あとから届く発注内容と、打ち合わせで決まったことを見比べられます。
シリーズ18回目は、フリーランスのデザイナー。2024年11月に施行されたフリーランス新法で、発注する側には、取引の条件を書面やメールで示す決まりができました。録音はその決まりの代わりにはなりません。そのかわり、示された条件と打ち合わせの中身をそろえるのに役立ちます。録音でできることの全体は総集編に、取引先の会議で録ってよいかはこちらに書いています。
打ち合わせで決まったことは、発注内容の数行と自分の記憶に分かれる
打ち合わせのあと、発注する側から条件が届きます。メールのこともあれば、発注書のこともある。そこに書かれるのは、決まったことの要点です。
ページ数と金額と納期は書いてあっても、打ち合わせで口にした細かい取り決めまでは載っていないことがあります。たとえば、修正は何回まで受けるか。写真が足りないときに誰が探すか。完成したデータを、ほかの媒体にも使ってよいか。
載っていない分は、自分の記憶の中にだけ。食い違いに気づくのが納品の直前になると、そのころには、どちらが何と言ったかを正確には思い出せません。
打ち合わせの最中は、相手の話とラフに集中できる
デザイナーは打ち合わせの最中に、ラフを描いたり、参考にしたいサイトを画面で見せたりします。手も目もふさがっている時間です。録っておけば、メモを後回しにできる。
要望の言葉も、前後の話と一緒に残ります。「もう少しやわらかく」「高級感を出したい」といった言葉は、どの参考サイトを見ながら言ったかで、意味が変わってくる。録音があれば、その言葉が出た場面ごと聞き返せます。
自分の様式で要約させる設定にしておくことで、見出しは毎回そろいます。たとえば「作るもの/条件/相手に確かめること」。インタビューの録音の使い方はライターの回に書きましたが、デザイナーの場合は、要望と条件が同じ打ち合わせに混ざっている点が違います。
届いた発注内容を、打ち合わせの中身と見比べられる!
条件が届いたら、打ち合わせの要約と並べて読みます。何を、どこまで作るのか。金額と支払いの時期。納期。データの使い道。
打ち合わせで決めたのに書かれていないことがあれば、作り始める前に「この点も書き加えてもらえますか」と頼めます。ここがいちばん大きいところだと考えています。食い違いを見つける時期を、納品の直前から、制作に入る前へ動かせる。 制作に入る前なら、確認のメール1通で済むことがほとんどだと思います。
発注する側にとっても、打ち合わせで話したことが条件にきちんと載っているのは、悪い話ではないはずです。録音は、どちらかの言い分を通すためのものではなく、両方が同じ中身を見ているかを確かめるためのものとして使うのがいいと考えています。
録るときは相手に断り、条件の代わりにはしない
取引先との打ち合わせを録るなら、始める前にひと言断っておきます。相手の会社に録音の決まりがあることもあるので、取引先の会議で録ってよいかで書いた確かめ方が、そのまま使えます。
録音は、条件の書面やメールの代わりにはならない。 後の節で書くとおり、法律は条件を文字で示すことを求めています。録音はあくまで、届いた条件と見比べるための材料。打ち合わせで決まったことは、書面かメールに載せてもらうところまでが一続きだと考えています。
相手の社内の話を、外に出さない。 打ち合わせには、まだ公開していないサービスの話や、社内の数字が出ることがあります。秘密保持の約束があるなら、録音もその範囲に入ると考えて扱う。渡す範囲は録るときに決まるので、誰に見せるかを先に決めておきます。録音がどこに保存されるかは、公式の説明をもとにまとめました。
納品と支払いが済んだら、消す時期を考える。 保守や更新の仕事が続くなら、残しておく意味があります。案件が終わったなら、持ち続ける理由は薄くなる(消す時期の決め方)。
フリーランス新法は、条件を「文字で」示すことを求めている
法人営業の回では、録音に当てはめられる法令がありませんでした。フリーランスには、条件の示し方そのものを定めた法律があります。通称フリーランス新法、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(…)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 第3条第1項)
対象になる「特定受託事業者」は、個人で従業員を使用しない人などです(同法 第2条第1項)。公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」は、この明示の決まりについて、従業員のいる発注者だけでなく「全ての業務委託事業者に適用される」としています。
何をどこまで書くかについては、こう書かれています。
3条通知において、その品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要がある。(公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)
デザイナーに関わりが深いのは、作ったものの権利の扱いです。発注の目的を超えて、著作権などを発注側に譲る、あるいは使わせる場合について、「考え方」は次のように書いています。
業務委託事業者は、3条通知の「給付の内容」の一部として、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。(同)
打ち合わせで「このデータはほかの媒体にも使いたい」という話が出たなら、それは条件に載るべき話だということです。
示し方は、書面のほか、メールやショートメッセージ、SNSのメッセージ機能などでもよいとされていますが、「考え方」は同時に、明示事項が「文字、番号、記号その他の符号で表示される方法でなければならない」としています。音声のままの録音は、この明示にはあたらないと考えられます。個別の取引への当てはめは、公正取引委員会の窓口や専門家にご確認ください。
まとめ
打ち合わせでは、作るものの話と条件の話が、同じ時間に出てくる。録音は、そのうちの条件の話を、あとから届く発注内容と見比べられる形で残しておくための道具です。条件を文字で示してもらう決まりがある今だからこそ、打ち合わせの中身とそろっているかを確かめる手段を持っておく意味は大きいと考えています。
次の打ち合わせでは、最後の5分で「今日決まったこと」を声に出して読み上げてみてください。録音の中に、見比べやすい一か所ができます。

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参考文献
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第2条・第3条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025 (2026年9月26日確認)
- 公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(令和6年公正取引委員会規則第3号)第1条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/506M60200000003 (2026年9月26日確認)
- 公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日、令和7年10月1日改正) https://www.jftc.go.jp/file/fl_jftcmhlwguidelines.pdf (2026年9月26日確認)
本記事は、法令と公正取引委員会・厚生労働省の公開資料にもとづく一般的な整理です。録音の可否、条件の示し方、個別の取引への当てはめについては、取引先との取り決めと公正取引委員会の窓口・専門家の案内をご確認ください。

