発明者へのヒアリングでは、話がどんどん専門の奥へ進みます。なぜこの材料なのか、どの条件だとうまくいかなかったのか、ほかにどんなやり方を試したのか。弁理士はうなずきながら質問を重ね、同時にメモも取る。ところが明細書を書き始めると、「たしか温度の話をしていた」くらいしか手元に残っていないことがあります。
聞き取りを録っておけば、発明者の説明を、明細書を書く段階までそのまま持っていけます。
シリーズ21回目は弁理士。発明者から話を聞き、特許出願の書類にまとめる立場です。録音でできることの全体は総集編に、士業が顧問先との面談を録る話は士業の回に書いています。
明細書に要る話ほど、ヒアリングの脇道で出てくる
発明者がいちばん話したいのは、うまくいった結果です。けれど明細書を書く側から見ると、大事な材料はその手前に埋まっていることが多いと考えています。
たとえば「最初は別の材料で試したけれど、割れてしまった」「この範囲を外れると性能が落ちる」という話。発明者にとっては通ってきた道の一部で、話しぶりも軽くなりがちです。メモには結論だけが残り、こうした脇道の話は抜け落ちていきます。
もうひとつは、発明者が「当たり前」だと思っていることです。社内では誰もが知っている前提でも、社外の読み手には書かないと伝わらない。この線引きは、ヒアリングの場ではなかなか気づけません。
聞き取りの最中は、技術の話を掘り下げられる!
録っておけば、メモは最小限で済みます。発明者の説明に合わせて「その条件を外すと、具体的に何が起きますか」「ほかに試したやり方はありますか」と、顔を上げたまま聞き返せる。聞き取りの進め方そのものは、研究者のインタビューの回がそのまま参考になります。
技術の話は、専門用語の固まりです。文字起こしの前に、その分野の用語や社内での呼び名を登録しておくと、読み返すときの手間がぐっと減ります(カスタム用語の登録)。発明者が複数人いるときは、発言者の名前を当てる仕組みも先に確かめておくと安心です。
明細書を書くとき、発明者の言葉に何度でも戻れる
この職業で録音がいちばん生きるのは、書きながら確かめられるところだと考えています。明細書を書いていると、「この数値の範囲は、どこまで言っていたか」「この工程の順番に理由はあったか」と、聞き直したい点がいくつも出てきます。録音があれば、まず自分で確かめられる。発明者に問い合わせるのは、本当に聞き足りなかった点だけで済みます。
文字起こしを自分の様式で要約させる設定にしておけば、毎回の聞き取りを同じ見出しにそろえられます。たとえば「解決したい課題/うまくいった構成/うまくいかなかった条件/ほかのやり方」。3つ目と4つ目の見出しがあるだけで、脇道の話が拾われる形になります。
出願前の発明だからこそ、置き場所を先に決める
依頼者の情報管理ルールを、録る前に確認する。 出願前の発明は、依頼者にとって最も大事な秘密のひとつです。録音を外部のサービスに保存してよいかは、依頼者の社内ルールで決まっていることがあります。録る前に一言たずね、了解を取ってから始めます。保存先の仕組みは、公式の情報で整理した記事にあります。
別の案件の話になったら、録音を止める。 ヒアリングの途中で、まだ相談前の別のアイデアに話が広がることがあります。今回の出願に関係しない話は録らないほうが、扱いがはっきりします。
録音を聞ける人を、事務所の中で決めておく。 渡す範囲は録るときに決まるので、担当以外の人がどこまで聞けるかを先に決めます。出願の書類が仕上がったら、録音をいつ消すかも依頼者と決めておきます。
審査基準は「当業者が実施できる程度」の記載を求めている
明細書には、法律で決まった書き方があります。特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明について、次のように定めています。
その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること
特許庁の審査基準は、この要件について、当業者に期待できる程度を超える試行錯誤や複雑な実験が必要な場合も、記載が足りないことになると説明しています。発明者が口頭で話す「どの条件でうまくいかなかったか」は、この記載を考えるうえでの材料になると考えています。
秘密を守る点については、2つの条文があります。特許法第29条第1項第1号は、特許出願前に公然知られた発明は特許を受けられないと定めています。弁理士法第30条は、弁理士に次の義務を課しています。
弁理士又は弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。(弁理士法 第30条)
録音の扱いをどう決めるかは、依頼者の情報管理ルールと、事務所での取り決めをご確認ください。
まとめ
明細書に要る話は、発明者がうまくいった結果を話す、その手前の脇道に多く埋まっています。録音は、その脇道の話を、明細書を書く段階まで持っていくための道具。書きながら発明者の言葉に何度でも戻れることが、この職業での一番の価値だと考えています。
次のヒアリングでは、最後の5分で「ここまでで、うまくいかなかった条件はほかにありますか」と一問だけ聞いて、答えを録ってみてください。その一問が、明細書の厚みを支える材料になります。

Plaud Note Pro
PLAUDより当サイト読者向けに5%OFFクーポンをいただきました
MRNXWCPG2ZVN
下の「Plaud公式ストアで見る」ボタンから進むと自動で適用されます(手動の場合は決済前の画面でこのコードを入力)。公式ストアの全製品が対象です。他のクーポンとの併用はできませんが、セール時は併用できます
価格・在庫・キャンペーンは各ストアの販売ページでご確認ください
参考文献
- 特許庁「特許・実用新案審査基準」第II部 第1章 第1節 実施可能要件 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0101.pdf (2026年10月1日確認)
- 特許法(昭和34年法律第121号)第29条(法務省 日本法令外国語訳データベース) https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/4097 (2026年10月1日確認)
- 弁理士法(平成12年法律第49号)第30条(法務省 日本法令外国語訳データベース) https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/4086 (2026年10月1日確認)
本記事は、法令と特許庁の公開資料にもとづく一般的な整理です。録音の可否や扱いについては、依頼者の情報管理ルールや事務所での取り決めをご確認ください。

