今回は職業別シリーズの10回目です。録音や文字起こしの使い方そのものは第9話までに書いたので、ここでは採用担当に固有のところを取り上げます。
面接が終わると、評価シートに向かう時間があります。受け答えは覚えているつもりでも、書けるのは「論理的だった」「印象がよかった」という結論のほうで、それを支えていた具体的な発言までは残っていない。評価のすり合わせで「あの人、何て言ってたっけ」となる場面は多いと思います。
ですが、面接の言葉が残っていれば、すり合わせを印象の話から本人の言葉の話に戻せます。
評価の根拠になる言葉ほど、面接中には書けない
面接官は、聞きながら次の質問を考えています。答えを受けて深掘りするか、話題を変えるか。その判断をしている最中に、評価の根拠になる一言を書き留めるのは難しい。メモに下を向けば、相手の表情を見逃します。
結果として、評価シートには結論が残り、根拠は面接官の記憶に残ります。面接官が2人いれば記憶は2通りあって、同じ応募者の同じ答えについて、受け取り方が分かれていることもある。すり合わせが印象どうしのぶつかり合いになりやすいのは、この構造があるからだと考えています。
すり合わせを、本人が言った言葉に戻せる
ここがAIボイスレコーダーの強みです。
音が残っていれば、評価が分かれたところで「その場面で本人が実際に何と言ったか」を確かめられます。「主体性がある」と評価した面接官と「指示待ちに見えた」と評価した面接官がいても、同じ答えを聞き直せば、どちらの受け取り方にも根拠があるのか、片方が聞き違えていたのかが分かる。評価の違いを、人の違いではなく読み方の違いとして話し合えるのは大きいと思います。
聞き返せるのは、答えの中身だけではありません。答えるまでの間、途中での言い直し、声の調子。同じ「やってみたいです」でも、迷いながら出てきた言葉なのか、はっきり言い切った言葉なのかは、文字にすると同じになってしまう。判断に迷ったときに、文字だけでは測りきれない受け答えを音で確かめ直せるのは、ボイスレコーダーならではの判断の補助です。ただし確かめたいのは質問への向き合い方で、話し方の癖やなまり、緊張しやすさそのものを評価に持ち込まないようにしたいところです。
面接官と応募者の発言が分かれて表示されると、聞き直す場面を探しやすくなります。話者を分ける機能については話者の聞き分けに書きました。
一次面接の中身を、次の面接官に渡せる
選考が複数回に分かれていると、二次面接の面接官は一次の評価シートを見て臨みます。シートにあるのは結論なので、一次で何を聞いて、どう答えたのかまでは分からない。同じ質問をもう一度することにもなります。
一次の文字起こしや要約を渡しておけば、二次は一次で出た話の続きから始められます。応募者にとっても、同じ話を繰り返さなくて済む面接になるかもしれません。第2話・法人営業の「なぜこの条件になったか」と同じで、結論だけでなく経緯ごと引き継ぐ形です。
評価会議の議論が、面接官の判断基準として残る
もうひとつは、面接のあとの評価会議です。
経験の長い面接官が「この人は通す」と判断したとき、その理由は評価シートの項目に収まらないことがあります。答えの中身より、答えるまでの考え方を見ていた、というような判断。そこには多くの応募者と向き合ってきた経験からくる直感が働いていて、それは面接官にとって大事な力です。そうした理由は、評価会議の議論のなかで一度だけ口にされることが多いように思います。
評価会議の議論を残しておくと、面接官ごとの判断基準が言葉になっていきます。若手の面接官が「何を見ればいいのか」を学ぶ材料にもなる。残せるのは、直感が何を見ていたのかを後から言葉にするための手がかりで、決めるのはやはり面接官の側です。この論点は第4話・現場監督で先に書いたもので、シリーズの縦の串です。ここで残すのは社内の議論で、応募者の面接そのものを研修に回す話ではありません。
録る前に点検しておくのは、自分の質問
使い始める前に、決めておくことが3つあります。
1つめは、応募者への伝え方です。 面接を録音するなら、始める前に伝えます。何のために録るのか、誰が聞くのか、いつまで保存するのか。社外の方に録音を伝えるときの考え方は取引先との会議、AIで録音していい?も参考になります。
2つめは、自分の質問です。 採用面接には、尋ねないよう求められている事柄があります。家族のこと、住まいのこと、宗教や支持政党、尊敬する人物、愛読書。雑談のつもりで聞いてしまいやすい話題ですが、録音していればその質問も答えも、そのまま記録に残ります。録音は面接官が自分の質問を聞き直す材料にもなるので、始める前に一度、自分がふだん何を聞いているかを点検しておくのが近道。応募者が自分から話した場合の扱いも、社内で決めておいたほうがいいと思います。
3つめは、保存の置き場所と期間です。 不採用になった方の録音をいつまで持つのか、どこに置くのか。選考が終わったあとも残し続けるものではないはずです。データの扱いはデータの扱いをまとめた記事、消す時期の決め方は録音データはいつ消せばいいかへ。
厚生労働省は、応募者の情報の扱いをどう書いているか
最後に、制度の話をまとめて置いておきます。飛ばしても本文の理解には困りません。
職業安定法第5条の5は、求人者や労働者の募集を行う者にも、応募者の個人情報の扱いを求めています。
その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
これを受けた厚生労働省の指針(平成11年労働省告示第141号)は、求人者などが収集してはならない個人情報を挙げています。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況
ただし、特別な職業上の必要性があり、業務の目的の達成に必要不可欠で、収集目的を示して本人から収集する場合は、この限りでないとされています。同じ指針は、収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄または削除するための措置にも触れています。
面接での質問については、厚生労働省の公正採用選考特設サイトがこう書いています。
次の(a)や(b)の事項をエントリーシート・応募用紙に記載させる、面接時においてたずねる、作文の題材とするなどによって把握することや、(c)を実施することは、就職差別につながるおそれがあります。
(a)は本人に責任のない事項で、本籍・出生地、住宅状況、家族、生活環境・家庭環境など。(b)は本来自由であるべき事項で、宗教、人生観・生活信条、思想、購読新聞・雑誌・愛読書、支持政党、尊敬する人物、労働組合・学生運動などの社会運動に関すること。
録音を面接に持ち込むなら、録る道具より先に、聞く中身を整えておく。制度の側から読み取れるのも、そういう順番だと考えています。録音の扱いや保存期間の決め方は、社内の取り決めに沿って、必要に応じて専門家に確認しながら進めてください。
まとめ
採用面接で記録がいちばん難しいのは、評価の根拠になる本人の言葉です。面接中は書く余裕がなく、あとに残るのは結論と印象になりがち。音が残っていれば、すり合わせを本人の言葉に戻せて、迷ったときは受け答えの調子まで聞き返せます。一次の中身を次の面接官に渡せて、評価会議の議論を残せば面接官の判断基準も言葉になっていく。
使う前に決めるのは、応募者への伝え方、自分の質問の点検、保存の置き場所と期間です。
面接は、会社と応募者がお互いを見きわめる短い時間です。その時間を記録に追われずに相手へ向けられるなら、評価の納得感も上がっていくのではないかと考えています。

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参考文献
- 職業安定法 第5条の5(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141 (2026年9月15日確認)
- 厚生労働省「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00005680&dataType=0&pageNo=1 (2026年9月15日確認)
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考時に配慮すべき事項」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html (2026年9月15日確認)
本記事は法令・指針と厚生労働省の公開情報にもとづく一般的な整理です。面接の録音の可否、応募者への説明、記録の保存期間については、所属する会社の取り決めをご確認ください。

