今回は職業別シリーズの9回目です。録音や文字起こしの使い方そのものは第8話までに書いたので、ここでは保険代理店に固有のところを取り上げます。
お客様との面談が終わってから、記録を作る時間があります。何社の商品を比べて、どれを勧めて、なぜそれにしたのか。お客様は最初に何を重視していて、途中で何が変わったのか。手元のメモと記憶をつなぎながら、形にしていく作業です。
ですが、面談の言葉がそのまま残っていれば、つなぐ材料を記憶まで探しに戻る場面は減らせます。
記録のいちばん大事な場面ほど、面談中には書けない
比較推奨販売では、何を比べてどれを勧めたか、その理由まで説明することになります。社内で記録を残す場面でも、同じことが問われる。問題は、記録に残すべき瞬間ほど、書いている余裕がないことです。
たとえば、はじめは「保険料を抑えたい」と話していたお客様が、説明を聞くうちに「やっぱり保障は厚いほうがいい」と言い出す。こうした意向の変化は、提案を組み直すきっかけになる、面談のなかでいちばん大事な場面です。そのときに募集人がやっているのは、話を聞いて、比べ直して、説明し直すこと。手を止めてメモを取る場面ではありません。
結果として、その一言は記憶の側に残ります。記録を作るときに思い出せるのは「途中で保障重視に変わった」という結論で、お客様がどんな言い方をして、何がきっかけだったのかは薄くなっていると思います。
意向が変わった一言が、言葉のまま残る
ここがAIボイスレコーダーの強みです。
音が残っていれば、意向が変わった場面をお客様が実際に言った言葉のまま確かめられます。記録に書くのは要点でも、その要点がどの発言から来ているのかを後から辿れる。「最初と言っていることが違う」という場面こそ、要約だけでなく元の言葉に戻れることに価値があると考えています。
同じことは、面談のあとに社内で説明するときにもあてはまります。第2話の法人営業で書いた「なぜこの条件になったか」と同じ形で、提案がこの商品に落ち着いた経緯を、担当者の記憶ではなく記録で渡せます。
意向把握の記録を、面談のあとに落ち着いて作れる
面談中は聞くことに使って、記録は終わってから文字起こしを見ながら作る。順番を入れ替えるだけですが、面談のあいだにお客様の顔を見ていられる時間は増えると思います。
AIの要約を使うなら、自社の記録の項目に合わせた形で出すことができます。主な意向、比べた範囲、勧めた商品とその理由、というように、社内の様式に沿った見出しで要約を出しておけば、そこから清書するのが楽になるかも。自分の様式で要約を出す運用の実例は録音するだけで、自分の様式で要約が出たへ。
ただし、AIの要約はそのまま記録にしない方がいいです。言っていないことが補われていたり、数字が入れ替わっていたりすることがあります。要約は下書きで、確かめる先は元の音と文字起こしです。どこを見直すかはAIの要約はどこを直せばいいかへ。
自分の比較説明を、あとから聞き直せる
もうひとつは、自分の説明を振り返れることです。
比べた商品のそれぞれをどう説明したか、勧めた理由をどんな言葉で伝えたか。説明している最中には、自分の話し方を客観的に見ることはできません。録音が残っていれば、偏った言い方をしていなかったか、理由が伝わる順番になっていたかを、自分で聞き直せます。
お客様と自分の発言を分けて表示できると、見直しやすくなると思います。話者を分ける機能については話者の聞き分けに書きました。
録る前に決めておくのは、伝え方と置き場所
使い始める前に、2つだけ決めておいてください。
1つめは、お客様への伝え方です。 面談を録音するなら、始める前にお客様に伝えます。何のために録るのか、どこに保存するのか、いつまで持っておくのか。聞かれたときに答えられる状態にしておくと、切り出しやすくなります。社外の方に録音を伝えるときの考え方は取引先との会議、AIで録音していい?を参考にしてください。
2つめは、保存の置き場所と期間です。 保険の面談には、お客様の家族や収入、健康にかかわる話が入ってくる。録音と文字起こしがどのサービスに保存され、どこへ渡るのかは、所属する代理店と保険会社のルールに照らして先に確認が要ります。個人の端末と契約で始めてよいかどうかも、そこで決まります。データの扱いはデータの扱いをまとめた記事、保存期間の決め方は録音データはいつ消せばいいかへ。
金融庁は、記録の形式をどう書いているか
最後に、制度の話をまとめて置いておきます。飛ばしても本文の理解には困りません。
保険業法第294条の2は、募集人などに意向把握を求めています。
顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結等の提案、当該保険契約の内容の説明及び保険契約の締結等に際しての顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行わなければならない。
そのうえで、乗合代理店の比較推奨販売について、内閣府令と監督指針が改正されました。金融庁は2026年8月28日に公表し、改正後の内閣府令は令和10年3月1日から施行、監督指針も同日から適用としています。改正後の監督指針には、比較推奨販売の適切性を確認・検証するための記録や証跡の保存期間などを社内規則で定めることが書かれています。
記録の形式について、金融庁はパブリックコメントへの回答でこう書いています。
保存媒体・保存形式については、紙媒体に限りません。電子データ、システム入力記録、音声データ、録画データ等を用いることも考えられます。また、顧客の署名・押印付き書面を一律に求めるものではありません。事後的に客観的な確認・検証が可能な方法で保存されていれば足りるものと考えます。
記録する内容については、次のとおりです。
顧客との全ての発言、応答、反応や、乗合代理店の詳細な判断過程を網羅的に記録することを一律に求めるものではありませんが、顧客の意向が変化した場合など、最終的な提示・推奨又は申込内容との関係を説明する上で重要な事情は、必要な範囲で記録することが望ましいと考えます。
さらに、比較ポイントや提示・推奨理由を要約して記録する方法も、事後検証が可能であれば差し支えないとしています。
読み取れるのは、録音は義務ではないということと、記録の手段のひとつとして音声データが挙げられているということです。全部を録って残すことが求められているわけではありません。意向が変わった場面のように、後から説明が要るところを確かめられる形で残す。そのための手段のひとつとして録音がある、という位置づけだと考えています。
なお金融庁は、施行日と適用日を待たずに、できるだけ早く体制を整えて比較推奨販売を適切に行うことが望ましいとも書いています。記録の中身や保存期間は各代理店が社内規則で決めることになっているので、実際の運用は所属先の決まりに沿って進めてください。
まとめ
保険代理店の面談で記録がいちばん難しいのは、お客様の意向が変わった場面です。そこは面談中に書く余裕がなく、あとから思い出すと結論しか残りません。音が残っていれば、その一言を言葉のまま確かめられ、記録は面談のあとに落ち着いて作れます。自分の比較説明を聞き直す材料にもなります。
使う前に決めるのは、お客様への伝え方と、保存の置き場所と期間です。
制度の側では、記録の形式のひとつとして音声データが挙げられています。求められているのは全部を録ることではなく、後から説明できる形で残すこと。お客様の気持ちが動いた瞬間を取りこぼさない道具として、面談の記録を少し楽にするきっかけになればと考えています。

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参考文献
- 金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令及び『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(2026年8月28日) https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260828/20260828.html (2026年9月14日確認)
- 同 別紙1「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」 https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260828/01.pdf (2026年9月14日確認)
- 同 別紙3「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(新旧対照表) https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260828/03.pdf (2026年9月14日確認)
- 保険業法 第294条の2(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000105 (2026年9月14日確認)
本記事は法令・監督指針と金融庁の公表資料にもとづく一般的な整理です。記録の内容や保存期間、録音の可否、お客様への説明については、所属する代理店および保険会社の取り決めをご確認ください。

