インタビューを録り終えても、分析に使えるのは文字になってからです。聞いては止め、打っては巻き戻す逐語録づくりが、調査と分析のあいだにまるごと挟まります。
そこでAIの文字起こしに下書きを任せると、白紙から打つところは飛ばせます。空いた時間は、語りを読み込むほうへ回せる。
職業別シリーズの12回目は、インタビュー調査をする研究者と大学院生です。録音と文字起こしの使い方そのものは第11話のライターまでに書いてきたので、ここでは研究に固有のところを取り上げてみます。
逐語録を起こしているあいだ、分析は止まったまま
質的な分析は、逐語録を何度も読むところから始まることが多いと思います。ところが、その逐語録を手で起こすと、録音の長さよりずっと長い時間がかかる。聞き取れない箇所で止まり、同じ数秒を何度も聞き直すからです。
調査の時期が重なると、前の回を起こし終える前に次のインタビューの日が来ます。前回の語りを整理しないまま次の人に会うことになり、聞いた話を受けて質問を組み直す余裕がなくなることもありえます。
逐語録の下書きが、次のインタビューの前にそろう!
AIの文字起こしに通すと、録音から下書きが出てきます。逐語録づくりは、白紙から打つ作業ではなく、音を聞きながら下書きを直す作業に変わる。
直すときは、どうしても語りを頭から通して読むことになります。次のインタビューの前に前回の下書きを読み返せれば、「前回のあの話を、もう少し聞いてみたい」という質問を持って会いに行けます。
専門用語や地名、団体の名前は、AIが一般的な語に変換してしまうことがあります。調査で繰り返し出てくる語を先に登録しておくと、直す箇所が減らせる。やり方は文字起こしで名前が毎回違う字になるときに書きました。
自分の聞き方が、文字になって見えてくる
逐語録に残るのは、相手の語りだけではありません。自分の質問も、同じ形で残ります。話者が分かれて表示されると、調査者の発話だけを追って読むこともできます。表示の整え方は話者の聞き分けへ。
読み返すと、相手の話を途中で引き取っていた場面や、答えを先回りして言ってしまった質問が見つかることもあります。その場では自然に聞いたつもりでも、文字にすると形が分かる。自分の逐語録は、聞き方を振り返るいちばん身近な教材だと考えています。
大学院生なら、その部分を指導教員に見てもらう使い方もできます。見せる前に、対象者に説明した共有の範囲に入っているかを確かめておきます。
ゼミで受けた指摘を、誰がいつ言ったかまで残せる
研究の向きが変わるきっかけは、ゼミや研究会での口頭の指摘だったりします。その場では分かったつもりでも、論文を書く段になると、どう言われたのかを思い出せない。
録っておけば、指摘をその言い回しのまま読み返せる。経験の長い人の指摘ほど、結論だけが一言で出てきて、理由はその人の頭の中に残っていることがあります。読み返して、なぜそう言われたのかを自分の言葉に置き直すところまでやって、ようやく指摘が自分のものになると考えています。
誰がいつ言ったかが残るのは、書くときにも役立ちます。日本社会学会の研究指針は、研究会で有益なコメントを得た場合に「この点については、○○研究会(○○年○月○日)での××氏のコメントに示唆を得た」のように注や付記で明記する例を挙げています。
ゼミを録るかどうかは、ゼミを運営する先生と参加者が決めることです。録るなら、その場の全員に先に伝えます。伝え方は会議で録音すると言い出しにくいときを参考にしてください。
AIに通す前に、対象者への説明を読み返す
ここが研究に固有のところです。
インタビューの前には、調査の目的や得た情報の扱い方を対象者に説明し、同意をもらいます。所属機関の倫理審査を受けた調査なら、その説明は計画書や説明文書として審査を通っています。
AIの文字起こしには、録音をクラウドに上げて処理するものがあります。PLAUDもその形で、日本のユーザーデータはAWS東京リージョンに保存・処理され、AIモデルの学習には使わないと公式ページに書かれています。詳しくはデータの扱いをまとめた記事へ。
そのうえで確かめたいのは、対象者に説明した情報の管理の仕方と、クラウドに上げて処理することが合っているかです。判断がつかないなら、録音を上げる前に指導教員や倫理審査の窓口に相談する。これから計画を出す調査なら、AIの文字起こしを使うことを最初から説明に入れておくと、あとで確かめ直さずに済むはずです。
逐語録を誰に渡すかも、同じ考え方で決まります。全文をそのまま送っていいかを書いた記事の「録るときに何と言ったか」が、研究ではそのまま説明文書にあたります。
AIの下書きは、音と突き合わせて直してから分析に使います。聞き取りにくい箇所や言いよどみは、別の言葉に置き換わっていることがあるからです。消す時期も自分では決めません。録音データはいつ消せばいいかで書いた「自分で消してよい範囲」の外にあるのが、研究の録音です。
学会の指針は、データの扱いを説明するところまで求めている
ここからは制度の話です。飛ばしても、本文の理解には困りません。
研究倫理のルールは、分野ごと、所属機関ごとにあります。ここでは例として、社会調査を扱う日本社会学会の研究指針を見ます。
指針は、対象者から直接データを得るときには事前に説明して同意を得る必要があるとして、説明する事項を挙げています。
(a)研究・調査の目的、(b)助成や委託を受けている場合には助成や委託している団体、(c)データ・情報のまとめ方や結果の利用方法、(d)公開の仕方、(e)得られた個人情報の管理の仕方や範囲などについてあらかじめ説明しましょう。
同じ項目には、次の一文があります。
特にデータ・情報の管理については、具体的に保護策を講じ、それを説明する必要があります。
説明した扱いと実際の扱いを揃えるという本文の話は、この一文にもとづいています。データの管理については別の項目で「調査中も調査後も厳正な管理が必要です」とし、所属機関などに倫理審査委員会がある場合は「そこが定める手続きを確認した上で調査を行うことが必要です」としています。なお、この指針は録音や文字起こしの方法を個別に定めたものではありません。
データを残す期間については、日本学術会議が2015年の回答で原則を示しています。
論文等の形で発表された研究成果のもととなった実験データ等の研究資料は、当該論文等の発表から10年間の保存を原則とする。
同じ段落には「医療分野や社会調査など、データ等の扱いに特段の規程がある場合にはそれに従う」ともあります。回答はインタビューの録音をどう扱うかを個別に書いたものではないので、何をどれだけ残すかは、所属機関の規程と研究計画で確かめることになります。
この記事は、倫理審査の要否や、個別の調査でAIの文字起こしを使ってよいかを判断するものではありません。迷ったときは、指導教員と所属機関の窓口に確認してください。
まとめ
インタビュー調査で録音がいちばん働くのは、逐語録を起こす場面です。下書きを先に作り、音と突き合わせながら直していけば、空いた時間を語りの読み込みに回せる。自分の質問の仕方や、ゼミで受けた指摘も、言葉の形のまま手元に残ります。
一方で、研究の録音は対象者との約束の上にあります。クラウドに上げる前に、同意をもらったときの説明と合っているかを確かめる。残す期間も、自分ではなく計画と所属機関のルールで決まります。
起こす作業に追われていた時間が語りと向き合う時間に変われば、それは研究の中身や進行に返ってくるはずです。

Plaud Note Pro
PLAUDより当サイト読者向けに5%OFFクーポンをいただきました
MRNXWCPG2ZVN
下の「Plaud公式ストアで見る」ボタンから進むと自動で適用されます(手動の場合は決済前の画面でこのコードを入力)。公式ストアの全製品が対象です。他のクーポンとの併用はできませんが、セール時は併用できます
価格・在庫・キャンペーンは各ストアの販売ページでご確認ください
参考文献
- 日本社会学会「倫理綱領にもとづく研究指針」(2025年10月一部改訂) https://jss-sociology.org/wp/wp-content/uploads/2025/11/JSS-code-of-ethics.pdf (2026年9月17日確認)
- 日本学術会議 回答「科学研究における健全性の向上について」(2015年3月6日) https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-k150306.pdf (2026年9月17日確認)
- Plaud「プライバシー保護とデータ安全性への取り組み」 https://jp.plaud.ai/pages/japan-privacy-security (2026年9月17日確認)
本記事は学会の指針と公開されている回答にもとづく一般的な整理です。倫理審査の要否、録音データの扱い、保存の期間については、所属機関の規程と指導教員の確認にしたがってください。

